AI時代のHDD・TMRと磁性めっき――再評価される磁気デバイス製造
こんにちは、営業部のTZです。
東設は、ウエハ・基板向けの電解めっき装置を、先端電子デバイスの製造現場へ数多く納入してきました。
近年拡大する生成AIへの投資は、弊社のめっき装置ビジネスにも大きな影響を及ぼしています。そこで本シリーズでは、市場の視点から、東設のめっき装置が果たす役割をご紹介します。
この記事では、AIデータセンター需要で再評価されるHDDと、磁気センサへ広がる磁性薄膜めっきについてお届けします。ご参考になれば幸いです。
「HDDは古い技術」と考えられることがあります。しかし、AI時代の需給データは、その見方を大きく変えつつあります。
一方、iPhoneのカメラに搭載される手ブレ補正用のTMRセンサーも、HDDと同じ「磁性めっき」という技術軸につながっています。
本記事では、HDDとTMRセンサーという二つの磁気デバイスの成長を、磁性めっきという共通の視点から解説します。AI需要連鎖とめっき技術の関係を俯瞰する「総論編」の詳細記事です。
この記事のポイント
AI向けデータセンターの容量需要が、ニアラインHDDの需要を押し上げています。
TMRセンサーは、スマートフォンのカメラ機能をはじめとする高感度磁気センシングに活用されています。
HDDの磁気ヘッドとTMRセンサーは、磁性薄膜めっきによる磁性材料の制御技術でつながっています。
フェイスアップ式は、磁性薄膜めっきを含む各用途に共通するめっき方式です。
ニアラインHDDで続く構造的な不足
生成AIの普及に伴い、データセンターのストレージ需要が急増しています。学習データや推論結果を保存する大容量ストレージとして、ニアラインHDDへの需要が大きく伸びています。
独立系の価格追跡データによると、HDDの平均価格は2025年9月から2026年1月までの4か月間で約46%上昇しました。モデルによっては、23〜66%の上昇が確認されています(プライシー)。
Western Digitalについては、2026年分の生産枠がほぼ埋まり、2027〜2028年までの長期供給契約が積み上がっているとの報道もあります(Servnet)。
TrendForceは、2026年4〜6月期のニアラインHDD契約価格が前四半期比で約10%上昇したと報じています。さらに、ハイパースケーラーが出荷量の約6割を占める状況でも、供給が追いついていないと指摘しています(TrendForce)。
こうした不足は、一時的な需給ギャップにとどまりません。AI需要を背景とした構造変化により、HDDは「過去の技術」ではなく、AIインフラを支える現役の基幹部品として再評価されています。
国内メーカーも設備増強へ
需要の拡大を受け、国内のHDD関連メーカーも設備増強に動いています。
東芝は、磁気ディスクを12枚実装したMAMR方式HDDを2027年に投入する計画です。直近では、11枚実装の30〜34テラバイト製品のサンプル出荷を始めており、量産開始は2026年度中を見込んでいます。同社は、2030年までに台数ベースで世界シェア20%以上を目指すとしています(ニュースイッチ)。
HDD用サスペンションの生産能力も、2026年度中に従来比20%増へ引き上げる計画です。2028年にはHAMRの量産化も目指すなど、関連企業の設備投資は拡大しています。
TMRセンサーの台頭
HDDの磁気ヘッド技術は、別の分野でも活用が広がっています。その一つが、TMR(トンネル磁気抵抗)センサーです。
TMRセンサーは、磁場の変化を高感度に検出する素子です。二つの磁性層の間に極薄の絶縁層を挟む構造を持ち、従来のホールセンサーと比べて約100倍の感度を持つとされています。
2026年3月、Appleは米国製造プログラム(AMP)の新たなパートナーとしてTDKを採用しました。TDKは、iPhoneの手ブレ補正やオートフォーカスに使われるTMRセンサーを、米国内で初めて生産することになります。Appleはこのプログラムに、2030年までに4億ドルを投資する計画です(MacRumors、JapanTalkback)。
TDKはTMRセンサーで世界トップシェアを持ちます。その技術の根底には、HDDの磁気ヘッド向けに90年以上にわたり蓄積してきた磁性材料の技術知見があります。
TDKはさらに、新潟県小千谷市に「TDK信濃川テクノ工場」を建設し、2029年上半期の稼働を目指しています(Semicon Electronics)。2026年第1四半期には過去最高の業績を記録するなど、成長の勢いが見られます(Investing.com)。
磁気ヘッドとTMRセンサーをつなぐ磁性薄膜めっき
HDDの磁気ヘッドとTMRセンサーは、どちらも「磁性薄膜・磁性材料の制御」という共通の技術課題を持っています。
磁気ヘッドには、微細な磁性膜の形成が求められます。TMRセンサーも、磁性層と絶縁層をナノメートル単位で積層する構造です。
東設は、磁気デバイス用途の磁性薄膜めっきを通じて培った膜制御の知見を、こうした磁性デバイス製造の文脈で活かすことができます。
HDDとTMRセンサーは応用先こそ異なりますが、製造の根幹には共通する磁性材料の制御技術があります。AIデータの保存需要がHDDを成長させ、スマートフォンの高性能化がTMRセンサーの需要を広げるなか、磁気デバイス用途の磁性薄膜めっきには両分野からの要求が集まっています。
東設の磁性薄膜めっきの知見
東設は、磁気デバイス用途の磁性薄膜めっきの分野で、長年にわたり技術知見を蓄積してきました。
HDDの磁気ヘッド製造とTMRセンサー製造の双方に関わる技術軸として、東設の磁性薄膜めっきは豊富な実績と対応力を有しています。
AI需要を背景にHDDとTMRセンサーの両市場が拡大するなか、磁性薄膜めっきに求められる性能も、ますます高度化しています。
東設のフェイスアップ式めっき装置は、磁性薄膜めっきを含む幅広い用途に対応できる共通の技術基盤です。磁気ヘッドの製造工程では、面内膜厚ばらつき2%以内という優れた膜厚均一性を実現する技術を有しています。
磁性材料には二元系・三元系の合金が用いられますが、求められる磁気特性を安定して得るためには、膜厚だけでなく、合金の組成比を面内で均一かつ安定的に制御することが重要です。東設は、装置設計に加え、めっき液の組成管理やめっき条件の最適化に関するノウハウも蓄積しており、高精度な合金組成制御に対応しています。 さらに、めっき槽を挟み込むように強力な磁石を配置し、成膜中の磁性膜に磁気配向性を持たせることも可能です。磁場を適切に制御しながら成膜することで、磁性膜に求められる厳しい特性を満たすめっきプロセスを実現しています。磁気ヘッドの製造における磁性膜めっき工程では、このように膜厚、合金組成、磁気配向性を精密に制御する高度なプロセス技術が求められます。
また、鉄の含有率が高い合金膜は、空気に触れると短時間で酸化しやすいため、めっき後の取り扱いにも高度な技術が求められます。東設は、大気接触による酸化を抑えながら基板を搬送する技術を有し、膜の品質維持まで考慮した装置・プロセスを提案しています。
さらに、磁性膜用めっき液の組成を一定に保つため、自動濃度分析装置「ISAS」を開発し、お客様に採用いただいています。めっき液の状態を継続的に管理することで、合金組成や膜特性の安定化に貢献します。
磁気センサーなどで要求される厚膜形成では、めっき膜の内部応力が品質や信頼性に影響します。東設では、装置の提供にとどまらず、内部応力を緩和するためのめっき条件についても、併せて提案することができます。
このように東設は、膜厚均一性、合金組成制御、酸化抑制、めっき液管理、内部応力対策まで、磁性薄膜めっきに必要な技術を総合的に提供しています。
HDD関連メーカーや磁性デバイス関連メーカーにとって、東設が培ってきた技術の厚みは、成長市場に対応するための信頼できる基盤となります。

東設のフェイスアップ式電解めっき装置のページはこちらです。
まとめ
AI時代に入り、HDDは「古い技術」という見方を覆しつつあります。一方で、TMRセンサーはスマートフォンをはじめとする分野で存在感を高めています。
この二つの磁気デバイスは、磁性薄膜めっきという共通の技術軸でつながっています。東設が蓄積してきた磁性薄膜めっきの知見は、HDD・TMRセンサー双方の成長市場との接点を広げている技術領域です。
AI需要連鎖の全体像については、ぜひ「総論編」もご覧ください。
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